最近は3DプリンターNeptune4に関わる記事や、作品の紹介など気まぐれに投稿しています。
凄い見出しにしましたが、スライサー設定の1か所変更するだけで驚く程印刷品質が向上する内容を紹介します。
皆さんは、印刷物の側面にかなり酷い横筋が入ってしまうことに悩んだことありませんか? 例えば、横穴や段差などがあるとその境目に積層ズレしたかのような横筋が入る現象です。(下記比較テスト画像参照)
私はずーっと気になっていて、どのサイトを捜し歩いても解決方法や問題視するコメントも見つからず、「仕方のない現象」としてスルーされているような感じでした。
そして、ついに、ついにこの問題を改善してくれるYouTube動画を見つけました!
この動画のコメント欄に書かれている内容がその答えです。
また、この内容は、FDM式3Dプリンター全般に共通する内容ではないかと思います。
動画は英語ですので、何をしゃべってるのか分かりませんが、要点を絞ってスライサーソフト(ここでは、Orca2.0.0とCura5.7.0)での設定を変えることでどれだけの効果があるのか検証してみました。
スライサー設定の変更箇所
1.Orcaスライサーの設定
「品質」の「Walls printing order」の項目で、デフォルトでは「Inner/Outer」となっている設定を「Outer/Inner」または「Inner/Outer/Inner」にします。
2.Curaスライサーの設定
「ウォール」の設定項目で、「ウォール順序」を表示させて、設定内容を「内側から外側へ」を「外側から内側へ」に変更します。
たったこれだけです。
設定変更内容の意味
例えば、ノズル径(線幅):0.4mmの場合に、壁厚(Walls):1.2mm設定とすると、壁は3線で形成されます。
下図の外側からABCの並びとします。
下図は模式図ですが実際の線幅は0.4mmよやや太くなり重なる箇所が出てきます。
設定内容の意味は、このABCの線をどの順序で印刷するかという内容になります。
スライサーソフトのデフォルト設定では、OrcaスライサーもCuraスライサーも内側から印刷となっているのでC→B→Aの順に印刷されます。
設定を変更することによって、
1.Orcaスライサーの場合
Outer/Inner: A→B→C
Inner/Outer/Inner:C→A→B
2.Curaスライサーの設定
外側から内側へ:A→B→C
という順序になります。
比較テスト
一般的なテスト条件としては、装置ELEGOO Neptune4、フィラメントはPLA+白、ノズル径0.4㎜、積層ピッチ0.2㎜、壁厚1.2㎜、インフィル15%、印刷速度250mm/sなど速めの設定をしています。変更箇所は、上記の壁印刷順序のみです。
外側(Outer)を「O」と略し、内側(Inner)を「I」と略しています。
テストピース1:30mm立方体に貫通角穴を2か所(X軸、Y軸方向)入れています。
top面にはXY軸方向を示す文字を入れています。
テストピース2:3DBenchyの下半分で船首下部でオーバーハング比較評価します。
Orcaスライサーでのテスト結果
左側から、I→O、O→I、I→O→Iの順に並べています。側面の前、左右、後面の全面を見てみます。
「内側→外側」の場合、全ての側面に強い横筋(赤矢印部)が入っています。印刷順序を変えることで、大幅に改善しています。
強い横筋以外にも、細かい積層痕が滑らかになり、すべすべの肌になっています。
改善点は、寸法精度にも現れています。
Top面近くの横幅が、「内側→外側」の場合30.17mmに対して、「外側→内側」30.05mmとなっており、XY方向全体的にも0.1~0.15mmほど小さくなっています。より設計寸法に近いとみてよいのでしょうか。
設計寸法10mmの角穴の内寸も測定してみました。「内側→外側」の場合9.88mmと小さめの寸法ですが、「外側→内側」の場合、10.02mm付近とほぼ設計寸法になっています。
更に、「外側→内側」の場合、エレファントフットと呼ばれるベッド面に当たる箇所での広がる現象もかなり低減しています。
このモデルではほとんど無いといってもいいくらいです。(I→O→Iでは、現象が出ています。)
更に、更に「外側→内側」の場合、オーバーハングでの不利が予想されたので、3DBenchyの下部のみを印刷してみました。
オーバーハングとなる船首下部の状態は、予想外に「外側→内側」の方が良い結果となりました。
更に、更に、更に、文字の印刷についてもTop面の「XY」を比較しました。
「外側→内側」の場合、明確な違いではありませんが、文字が太くなり、エッジ部分も明確になったように感じます。
ということで、印刷順序を「外側から内側」に変えるだけで、多くの改善が見られました。
Curaスライサーでのテスト結果
Curaの場合は、I→O、O→Iの2種類になります。側面の前、左右、後面の全面を見てみます。
Orcaスライサー同様に、「内側→外側」の場合、全ての側面に強い横筋(赤矢印部)が入っています。
また、印刷順序を変えることで、大幅に改善しています。
細かい積層痕も滑らかになり、明らかな改善が見られます。
寸法についてもOrcaスライサーと全く同様の傾向が出ています。
オーバーハングについては、明確な違いではありませんが、「外側→内側」の方がやや良いかなって感じです。
テスト結果の評価と考察
殆ど全ての内容で、「外側→内側」の設定に変える方が良くなっており、大きな改善となりました。特に側面の筋や積層痕の改善は外観上大きく影響しますし、寸法が正確になりエレファントフットが改善されれば、部品の勘合や組付けも容易になりそうです。ギヤの遊びの設定も小さくできそうですし、やすりでゴリゴリすることも減りそうです。
では、何故改善したのでしょうか、考察していきます。
一番外側の線が表面状態や寸法精度に一番影響します。この線を先に固めてしまうことが隣の線の干渉を受けずに位置が決まることによって上記全てのことが説明できると思います。2番目、3番目の線は先に固まった隣の線との干渉により少しずれることになります。「内側→外側」とした場合、内側から固めて外側に向かって少しずつ干渉によるズレが表面に出てくるのだと思います。
「内側→外側」のメリットとしては、急角度のオーバーハングでも内側から線を乗せていけば、成形しやすいという考えなのでしょう。でも、「外側→内側」のメリットの方が遥かに大きい気がします。理屈を理解し、問題が生じた時に「内側→外側」を選択するという使い方が良いように思います。
まとめ
今回はかなり大きな収穫を得ました。是非、皆様も試してみてはいかがでしょうか。
ところで、何故スライサーのデフォルト設定が「内側→外側」になっているのか、不思議でなりません。
今回のことを適用すると、様々な品質評価をされているサイトや動画の内容が変わってくるかもわかりません。
また実運用での実績を重ねて改めて評価したいと思います。